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大阪地方裁判所 昭和47年(ワ)848号 判決 1976年4月27日

原告

山田雄造

原告

マクス・ブロンデル・ラ・ルージユリイ

右原告ら訴訟代理人

片山善夫

被告

日本ケース株式会社

右代表者

森田重成

右訴訟代理人

安富敬作

外三名

主文

一  被告は、原告山田雄造に対し、金三〇〇万円およびこれに対する昭和四七年三月九日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、その費用をもつて原告マクス・ブロンデル・ラ・ルージユリイのために、株式会社朝日新聞社(東京本社)発行の朝日新聞、株式会社毎日新聞社(東京本社)発行の毎日新聞の全国版朝刊社会面広告欄に、二段抜きをもつて、表題、右原告及び被告の氏名二〇級ゴシツク、本文一五級明朝体活字を使用して、別紙記載の謝罪広告を各一回掲載せよ。

三  原告山田雄造のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、原告山田と被告との間においては、これを三分し、その二を原告山田の負担とし、その余を被告の負担とし、原告ラ・ルージユリイと被告との間に治いては全部被告の負担とする。

五  この判決の第一項は原告山田雄造において金三〇万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一<証拠>によると、原告ラ・ルージユリイは地図、「パリー市鳥瞰図」(PLAN DE PARIS A VOL D'OIS-EAU 幅二二〇糎・堅一五八糎)を、フランス政府の協力を得て、ほぼ一〇年間かかり各建造物はもちろん、樹木にいたるまですべてにわたり写真撮影することなく、現場に赴いて調査し、建造物等の特徴の強調と省略とにより、略画的手法を以て手書きし、さらにこれを写真で縮少して一九五九年(昭和三四年)にパリー市観光用地図として完成させて創作した著作権者であること及び原告山田が昭和四四年一〇月六日原告ラ・ルージユリイから右「パリー市鳥瞰図」の日本における著作権(複製権)を譲り受けたことが認められ、原告山田が同四六年三月三一日文化庁表示番号一〇〇二三号をもつて著作権譲渡の登録手続を了したこと及び被告が紙箱等の製造販売を業とする会社であることは当事者間に争いがない。

二<証拠>を総合すると、被告会社の美術課に勤務していた田中忠雄は、昭和三四、五年頃、同僚のデザイナー及び営業担当者と相談して、本件「パリー市鳥瞰図」のエトワル凱旋門の箇所を中心に拡大して洋服箱の図案として使用することとし、被告会社はその印刷を当初大日本印刷株式会社に依頼し、昭和三七年頃から同四五年頃までの間右図案を貼り合わせた洋服箱を製造販売し、また、昭和四四年頃本件「パリー市鳥瞰図」のエツフエル塔、エトワル凱旋門の箇所を中心に包装紙の図案として使用し、右包装紙を製造販売した事実が認められる。

そこで、本件「パリー市鳥瞰図」と本件洋服箱及び包装紙の図案とを対比すると、本件洋服箱及び包装紙には原告ラ・ルージユリイの氏名が表示されていないばかりでなく、右著作物は構図が正確であり、細書きで細部まで詳細、且つ精緻に記載されており、又全体的に明るい感じを与えるところ、右洋服箱は前記のとおり右著作物の一部を拡大したことによつてその特徴を抹殺しており、本件包装紙の図案は、全体的に暗い感じを与え、各建物、構築物等の描写も不明確であるばかりでなく、有名なエツフエル塔をエトワル凱旋門の隣に配置して不正確なものに変え、又セーヌ川の両岸及びソルフエリノ橋の様子等を改ざんするなどしている。

以上認定の事実によると、被告自身が本件「パリー市鳥瞰図」を改ざん偽作して本件洋服箱及び包装紙の図案として使用したものと認めるべきである。

次に、被告の営業目的、前掲鑑定人Tの鑑定の結果、本件「パリー市鳥瞰図」が美術的香り豊かな著作物であることが一見すれば容易に判明すること及び前掲甲第一号証には右著作物の右下隅の箇所に「BLONDEL LA ROUGERY 1959」と記載されているので、右著作物の著作権者が原告ラ・ルージユリイであること(原告ラ・ルージユリイが本件著作物の著作権者であることは当事者間に争いがない。)が明らかであること等の事実に照らすと、被告が本件著作権を侵害するにつき、少なくとも過失があつたものと言わざるをえない。

三原告らの損害

(一)  <証言>によると、被告は洋服箱に貼り合わすべき本件図案の原紙約一〇万枚の印刷を大日本印刷株式会社に依頼したこと、印刷及び加工ロスが約三パーセント出るほか輸送上のロスが多少出ること、原告山田から本件著作権を侵害したとして告訴された当時、被告には右印刷済みのものが洋服箱約一万個分残存していたところ、検察官の指示によりこれを廃棄したことが認められ、<証拠排斥>。

右認定の事実によると、被告は前記期間中少なくとも八万個の本件洋服箱を製造販売したものと推認される。

次に<証拠>を総合すると、次の各事実が認められる。

(1)  本件「パリー市鳥瞰図」はフランスにおいては勿論、世界中においてその芸術性を高く評価され、フランス政府観光局発行のパリー市案内パンフレットにも使用されているところ、原告らは右著作物につきフランス文化の紹介等に使用する場合のほかは、その使用条件を厳しくしていること、

(2)  右著作物の複製物はフランスでは一枚二四フラン、日本では一枚九〇〇円で販売されていること、

(3)  原告山田は昭和四四年一〇月六日本件著作権等を原告ラ・ルージユリイから譲り受けて以来、同人に対し毎年最低限度一万五〇〇〇フランを支払つているところ、本件著作権の対価が右対価の相当の部分を占めていること、

(4)  被告は本件洋服箱を前記期間中一個七、八〇円で販売したが、本件「パリー市鳥瞰図」が未だ日本でほとんど知られていなかつたためその図案の漸新さがうけて、長期間にわたり顧客の人気を得て非常によく売れたこと、

(5)  原告山田が代表取締役をしている一華産業株式会社は昭和四五年一月一三日川辺株式会社との間で右著作物につき著作権使用契約を締結して、右川辺がハンカチーフ、スカーフ、マフラーに右著作物を独占的に使用することを許諾するとともに、その対価として、右川辺は一華産業に対し初年度は五〇万円、次年度以降は毎年三五万円を支払うほか、版権使用料としてハンカチーフ一枚につき五円、スカーフ、マフラー各一枚につき三〇円を支払う旨約したこと、

(6)  右一華産業株式会社は昭和四七年三月二日株式会社写真化学との間で本件著作物につき著作権使用契約を締結して、写真化学が金属板及び硝子板製額、壁画等に右著作物を使用することを許諾するとともに、その対価として写真化学は一華産業に対しパリー全図二枚続き一組につき四万円の割合による使用料を支払う旨約したこと、

(7)  日本放送協会はテレビ「たのしいフランス語」のテキストに本件著作物を使用した対価として前記一華産業に対し昭和四七年八月初旬頃四万円を支払つたこと、

(8)  日本航空株式会社は昭和四七年五月中旬頃航空券売場のポスターとして使用するため本件「パリー市鳥瞰図」の複製物一八〇〇部を一部一八〇〇円で前記一華産業から購入したこと、

(9)  株式会社大丸は昭和四八年四月中旬頃右著作物を銅板パネル一式に使用することの対価として右一華産業に三〇万円を支払つたこと及び右大丸は同四九年四月下旬頃右著作物をシヨーウインド、売場の装飾として四ケ所で二週間使用することの対価として右一華産業に八万円を支払つたこと、

(10)  一華産業株式会社は昭和五〇年七月九日本件「パリー市鳥瞰図」の中央部をセーター箱の図案として無断で複製印刷して右セーター箱を六、〇〇〇個製造した大昭和紙工製造株式会社との間で同会社は右一華産業に対し著作権使用料相当損害金、慰藉料等として合計七五万円を支払う旨の和解契約を締結したこと、

(11)  右一華産業は昭和五〇年八月三〇日右著作物の中央部を洋服箱の図案として無断で複製印刷して右洋服箱一万〇〇七〇個を製造した野崎印刷紙業株式会社との間で同会社は右一華産業に対し著作権使用料相当損害金、慰藉料等として合計七五万円を支払う旨の和解契約を締結したこと、

(12)  株式会社座右宝刊行会が編集制作し、株式会社小学館発行の「世界歴史の旅」パリ二〇〇〇年(昭和四三年七月)の記事二ケ所に本件「パリー市鳥瞰図」が無断使用され、これが二〇〇〇部販売されたのに対し、一華産業株式会社に著作権使用料相当損害金として二六万円が支払われたこと、

以上の各事実が認められる。

右認定の被告の本件洋服箱の販売数及びその単価、本件「パリー市鳥瞰図」の創作過程、その芸術的評価、その複製物の単価、右著作物のハンカチーフ、スカーフ、ポスター、セータ箱等における著作権使用料等を考慮すると、被告が本件洋服箱を製造販売したことによつて原告らの被つた財産上の損害は二〇〇万円と算定するのが相当である。

(二)  前記認定の被告の本件著作権侵害行為の態様及び右諸事情等を勘案すると、被告が原告ラ・ルージユリイの著作者人格権に対しなした侵害による損害の賠償額は一〇〇万円と認めるのが相当であり、さらに、右原告の毀損された名誉信用について被告に対し主文第二項記載の方法で別紙記載の謝罪広告を掲載させることにより、その回復がされうべきものと認められる。

(三)  <証拠>によると、原告山田は原告ラ・ルージユリイから本件著作権を譲り受けるに際して、右譲渡以前の日本における右著作権の侵害により発生する一切の損害賠償請求権をも同時に譲り受けたこと及び原告ラ・ルージユリイは昭和四八年三月二一日到達の書面で被告に対し同原告の被告に対する右損害賠償請求権を譲渡した旨通知したことが認められる。

(四)  原告山田は本件権利侵害行為につき、損害賠償請求のほか、更に名誉声望を回復するための措置として別紙記載の謝罪公告を求めているが、右原告山田の請求は著作者について認められるものであり、特別の事情が認められない本件においては、著作者でない著作権者たる原告山田はこれを求めることはできないと解すべきである。したがつて、原告山田の右請求は失当である。

四結論

以上の事実によれば、本訴請求は、被告に対し原告山田が、三〇〇万円及びこれに対する本件不法行為の後である昭和四七年三月九日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、原告ラ・ルージユリイが主文第二項記載のとおり別紙記載の謝罪広告の掲載を求める限度において理由があるので認容し、原告山田のその余の請求は失当であるので棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言について同法一九六条一項を適用して主文のとおり判決する。

(大江健次郎 渡辺昭 北山元章)

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